「あるレストランでのできこと」
あるテーマパークは「夢と魔法の国」がテーマである。
訪れた人みんなに「夢を与え、幸せになってほしい」と願っている。
お客さまに接する人は、みんな「キャスト」と呼ばれている。
そう呼ぶのは、来園されたすべてのゲスト(お客さま)に、夢と幸せを与えるキャスト(役者)でありたいという願いからである。
そのテーマパークの一角にあるレストランに、若い夫婦がやってきたときのことである。
二人掛けの席に案内された夫婦にキャストが注文を取りに来た。
夫婦はそれぞれが食べるであろう料理を注文し、キャストが注文を確認しようとしたそのとき、女性のほうが申し訳なさそうに言った。
「それと、、、お子さまランチをください」
キャストは困惑した。
そのお店のマニュアルでは、お子さまランチは9歳未満の子どもにしか出せないことになっていた。
若い夫婦はさみしげな表情で、たがいを見つめ合っていた。
キャストは悩んだが、勇気を出してその夫婦に理由を聞いてみた。
「今日は、昨年亡くなった娘の誕生日なんです。体が弱く娘は最初の誕生日を迎えることが出来ませんでした。」
「娘がおなかの中にいたときに『ここにお子さまランチを食べに行こうね』と約束していたのに、それを果たせませんでした。」
「それで、今日は娘にお子さまランチを頼んであげたくて、このお店に来ました。」
それを聞いたキャストは言葉を詰まらせた。
窓の外には楽しそうに親子3人で歩く家族の姿が見える。
キャストは迷ったが、いつもの笑顔でこう言った。
「お客さま、こちらのお席へどうぞ」
キャストは夫婦を四人掛けの席に案内し、子ども用の椅子を用意した。
キャストは、まもなく夫婦の料理とお子さまランチを運んできてこう言った。
「どうぞ、ご家族でごゆっくりとお楽しみください」
本来はマニュアル違反であったこのキャストの行動に対し、相談した上司も他のキャストもこころよく協力した。
のちにこの夫婦から届いたお礼の手紙は、このキャストの行動とともに社内報で全社員に伝えられた。
教材名 「あるレストランでのできごと」 (出典 山田眞「ディズニーランド流心理学」 三笠書房)